雨崩村は、雲南省徳欽県雲嶺郷の山奥にあり、車道がなく、徒歩か馬でしか辿り着けない秘境の村です。途中ナゾヤ峠(3700m)を越えて、馬で4,5時間、18キロの行程です。梅里雪山のメツモ峰麓の氷河谷の谷底に位置するこの村は、周囲とは隔絶されており、古き良きほのぼのした農村の趣を残しています。村を取り囲む神々しい雪山、木々が生い茂り、川沿いに広がる牧草地の緑豊かな風景、燦燦と降り注ぐ太陽。美しい風景と、独特の環境が相まって、「まさに桃源郷」「シャングリラの縮図」と賞賛されています。
「雨崩」はチベット語で経文の意味です。雨崩村は上村と下村に分れ、合わせて20世帯余りが暮らしています。外へ通じる道は一本のみです。上村は1991年の日中合同登山隊のベースキャンプに通じており、下村は「雨崩神瀑」「古篆天書」「五樹同根」などのスポットに通じています。雨崩村はその独特の地理、気候条件から降水量が多く、植物が生え茂り密集しています。変わった形の植物もたくさんあります。1本の老木の幹に何本もの木が寄生し、ひとつの根に何種類もの木が共存しているように見える木があり、これは「五樹同根」と呼ばれてます。
雨崩村は、神女峰、五冠神山などの高い山から流れ落ちる氷河が削った氷河谷の底にあるため、U字の谷と、至るところに数百キロから万トン以上の漂礫(ひょうれき、氷河または風化作用で破壊運搬された大きな岩石の破片)を見ることができます。眺めていて別世界を思わせる神秘的な光景です。村へ通じる細道に大事に参拝されてきた漂礫があり、チベット文字に見える文様から「古篆天書」と呼ばれています。
雨崩神瀑
雨崩神瀑は霊峰カワカブの南側に位置し、聖なる滝とされています。四季折々景色が変わります。春、夏には水量が増し、氷河の水が岩壁を落下し水しぶきが飛び散り、雨季はいっそうその壮観さに圧倒されます。他の季節には、滝は幾筋もの細い流れとなり、岩肌に垂れ下った白い旗のように見え、聖地ならではの凛とした雰囲気が漂います。チベット族や巡礼者は、滝水を浴びるとともに、心も洗われると考え、聖なる水を競って浴びたり飲んだり、瓶に入れ持ち帰って供養する者もいるそうです。
雨崩村は、現代社会とは隔絶されているため、純朴なチベット民俗・習慣を保っています。最も不思議なのは「兄弟共妻」(長兄が結婚すると弟たちも新婦と婚姻関係に入る)です。長兄が家にいると弟が街へ出稼ぎに行き、弟が戻って来たら兄が出稼ぎに行って家庭の問題を解決しているそうです。生まれた子供は、実父かどうかに関わらず兄と弟を「お父さん」と呼び、ほのぼのした家族で幸せいっぱいです。